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鮨さかい(3部作) 福岡県福岡市

「鮨さかい」、「我逢人」、「在掌」

「鮨さかい」 2017

店主の堺さんから、西中州に店を移したいと依頼を受けたのに始まる。鮨の世界の厳しさや修業時代のこと、私からは建築に込める思いや難しさなど、互いに胸襟を開いた意思疎通から始まった。

店は、握り手の堺さん一人で賄える大きさとし、当初10席として矩の手に回るカウンターと、将来的に弟子を立たせる個室2部屋を用意することとした。

アプローチには腰掛とつくばい、正面の明かり障子で体裁を整えて客席へと導く。カウンターは三峰神社の桧材が手に入り、北山丸太を駆使しながら、上質な数寄の空間を目指した。板場を囲う客席正面には、床を設けて季節感を醸成し、床脇には氷室を造り付けた。福岡赤坂からこの地に移転して1年足らずでミシュラン3ツ星を獲得され、堺さんを盤石に導く発端となった。

施 工 株式会社 谷川建設

「我逢人」 2020

「鮨さかい」竣工から2年が過ぎたころ、個室を主体にした店を作りたいと相談を受けた。目的のひとつが、弟子たちに活躍する場を与えて意欲を高めたいとの堺さんの願いがあった。

そこで3つの異なる個室を持つ店を提案した。直のカウンターからなる「嘉祥」、茶室の趣きの「瑞光」、矩の手にカウンターを回した「寒梅」と、敢えて大きさの異なる部屋を用意し、それぞれに趣向を凝らした空間を形作った。

全体を畳敷きの座敷として、玄関で靴を脱いで上がる。客は好みの席で、自分たちだけの自由な時間を過ごすことがその主旨である。弟子を板場に立たせながらも、本店とは異なるもてなしで、新たな魅力を付加したいと考えた。

小さな空間ながらも、変化に富んだ密度の濃い空間に仕立てられたのではと思っている。

施 工 株式会社 大山建工

「在掌」 2024

我逢人の竣工後、1年が過ぎた頃、これからの展開について相談があった。弟子の数も増え、若い人の能力をいかに引き出すか、と同時に、自身の将来設計についても悩まれていた。

それでも、弟子を育てる方針に意を決され、3店目の出店となった。若い2人の弟子に任せ、板場を囲む14席のカウンターを矩の手に回し、各々7人ずつを相手にもてなす形態となった。

これまでの2店は正当な数寄の空間としたが、ここは若い人が巣立つ姿を形にしたいと望んだ。

店内は夜明け前の静謐さと、殻を破っていく力強さを黒の色調で表し、素地のカウンターの瑞々しさと対比させて、“粋”を隠れたテーマとした。

また、ワインの需要が大きいことからセラーを設け、200本超の収蔵空間を用意した。

店名は禅語の「明珠在掌」から命名している。

施 工 平松装備 株式会社

鮨さかい(3部作)

前田 伸治
暮らし十職 一級建築士事務所

Shinji Maeda & Kurashijisshoku Archiects Office

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