福岡西中州の鮨店、別邸<竣工3>

これが「寒梅」の間である。
ここからは、外の壁面に沿って滝のように水が流れるのが見える。3部屋のうちで、ここだけが大きく外に向けて開口があることから、それを活かして作った。
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           <寒梅の間 窓外の滝を見る>
カウンターを矩の手に回し、その中心に板場がある。
客座は駆け込み天井として杉磨き丸太を配り、板場は網代を張った天井とした。矩の手にカウンターが回ることから、客同士の顔が見え「一座建立」といった趣がある。
写真は昼間に撮ったもので、明るさが大きく感じられるが、かなり照明は絞っていて、夜ともなると天井の隅に小さな闇ができる程度に抑えている。
3部屋の各板場には焼き台を設け、あぶりものなどを供する用に備えた。
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           <寒梅の間 カウンターを見る>
 
3つの座敷の中間に、茶室の小間の室礼で部屋を作った。
「瑞光」の間である。
玄関から上がり、廊下も畳敷きとして各座敷をつなげたが、この座敷は廊下から躙口を潜って席入りする。とはいえ茶室ではないので、若干通常の躙口よりは大きな寸法としたが、雰囲気はまさに茶室である。
躙口を入ると正面に床をしつらえ、その前が板場となる。カウンターを床に向かって一本で通し、足を入れる部分を掘っている。
客座は大きな駆け込みとして、白竹の垂木に木舞を掻いた。
小さな空間ながら4人は十分に座れる。
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         <瑞光の間 廊下からの入口 躙口を望む>
この席には銘をつけたいと思っていたところ、博多の聖福寺の白峰老師にご縁をいただき揮毫いただいた。
さまざまな活動をされていらっしゃる老師にあやかり、この場から多くのご縁が生まれればと願っている。
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           <躙口から瑞光の間内部を見る>
こうした内装仕事は、通例だとあまり引き受けないのだが、堺さんの熱意にほだされて、ついのめりこんだ。
鮨をめぐる情熱をいつも目の当たりにし、私自身も大いに刺激をもらった。弟子を思う気持ちと、それにこたえる弟子と、師弟共生の道を堺さんなりに築かれてきたのだろう。
今後の発展を祈念してやまない。
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                <瑞光の間>
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              <白峰老師の揮毫>
既に多くの人が訪れてくれていると聞く。
店主の堺さんとは、竣工後まだご一緒する機会を得ずにいる。
この時勢が早く収束して、大手を振って一献できることを願うばかりである。
 (前田)
設計監理  前田 伸治
      暮らし十職 一級建築士事務所
施工(建築)株式会社大山建工   大山慎司
  (設備)株式会社岩橋プランズ 岩橋卓哉
  (家具)ヤマコー株式会社   村山千利
  (室礼)茶道具 左座園    左座喜男