伊勢の町家「伊賀くみひも平井」<竣工1>

随分と更新が滞ってしまった。
各地の現場や、新たな仕事の図面などに加え、今年は地元の自治会長を引き受けたものだから、4月以降、週末の2日間が全て取られていた。
これも今週の体育祭でおよその行事が終わるとあって、胸をなで下ろしている。

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             <おはらい町通りより建物全景を望む>
竣工してから月日が過ぎたが、改めて伊賀くみひもの建物を紹介したい。
当主の平井さんとは、10年前ほど前からの知己で、以前はおはらい町通りの内宮に近い場所で店を構えていた。店は1階のテナントで、その内装をやらせていただいたのがきっかけだった。
人柄がにじむ方で、いつも礼儀正しい姿に、こちらの身が正される思いでいた。
その建物のオーナーが代わるため、新たに店を移してこの場所に新築する運びとなり、改めて設計を依頼された。場所はおはらい町通りの北端にあたるところで、以前と比べると人通りが少ないことが心配だった。それでも土地が広いため、大店(おおだな)の構えにはなるだろう、などと話しながら設計が始まった。

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                    <みせ内部>
隣の建物は、私が15年前に設計した五十鈴塾の建物で、現在は財団法人伊勢文化会議所が運営している。塾は3棟の建物で構成され、この建物を右王舎(うおうしゃ)と呼ぶ。実はこの敷地に以前建っていた建物が、伊勢では珍しい平入りの建築で、右王舎を設計する時に、その建物に倣って作ろうと設計した経緯がある。従って軒高なども、以前あった建物に準じている。
それがこのたび、当敷地に新築することとなり、今度は右王舎に写した寸法を、改めてこの建物に生かそうと取り組んだ。ご覧頂くように、こうして軒高を合わせた2棟が並ぶだけで、充分街並みに貢献できる。
伊勢は妻入りが多く残されているものの、間口の大きな家では、こうした平入りや入母屋の屋根にして、建物による道への圧迫を避ける例が見て取れる。これも先人の知恵なのだろう。
現在はこの地域に景観条例が掛けられたため、建物を作る時はすべて妻入りにしなさいといわれる。現在、小さな増築をおはらい町で行っているが、本体建物が平入りのため増築部分も平入りとしたが、それでも頑なに妻入りにせよという。
景観尊守も結構だが、こうした建築上の造形を、、主旨を理解しないまま押しつけるのは本末転倒といわざるを得ない。

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                  <当主の平井さん>
先日、久しぶりに店を覗いたら、平井さんがお見えになっていた。
商いも順調のようで、当初の心配も杞憂に終わったようだ。
余談が多くなったが、詳しくは次号で。
  (前田)