串本の町家 竣工3

急ぎの福岡の仕事も昨日で納まり、ちょっとした開放感に浸っている。
梅雨の晴れ間はすでに真夏の暑さで、日射しが肌にいたい。
頭を切り換え、この夏は東京の仕事に挑む。
串本の町家の続きを。

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                   <みせ内部を見る>
格子戸を開けるとみせのカウンターが正面に迎えてくれる。内部は2階の床組を現した根太天井とし、天井を白竹の詰め張りとした。
1階外の下屋を支える腕木が、胴差しと天秤になって室内に現れ、力の動きがこうした木組みから伝わってくるのも木造建築の醍醐味だろう。工事にあたっては色々と話し合ったが、構造材は全て桧を使うことにした。地元で採れる木で作るのが最も望ましいわけで、材木を集めてくれた山形さんの尽力に負うところが大きい。木に対する情熱は相当なもので、お会いして話すわずかな時間にも、その熱い気持ちが伝わってきた。
材料がいいと、こうした色付けをする必要があるのかと、工事に携わる皆は思っていたようだ。
しなくてならないことではないが、色付けをすることによって、木の艶めかしさを抑え、全体を統一するためにも、施す効果を話して理解を得た。
もとより、施主は色付けを当初から譲るつもりはなかった。

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                  <みせから中庭を見る>
カウンターのショーケースは、ご主人たっての希望で、腰を漆喰として上にガラスの箱を載せるといった、スタイリッシュな形を望まれた。家具はいつもの村山千利が請けてくれ、ご主人の希望に添った形を図面でやりとりし、現場で納めてくれた。
こうした形をやるのは初めてだと、村山さんも悩まれたようだが、こうして納まると空間に馴染んで心地よい。腰の漆喰は、左官の西川君が伊勢から駆けつけてくれ納めてくれた。腰の曲線だけは、現場で私が指示したものだが、こうした造形が独自性の強調に繋がる。
菓子を並べる台には木曽檜を用い、おとなしくも上品なケースに仕上がった。

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                     <中庭を見る>
中庭をどうするか、具体的にこうして欲しいといった私からの希望はなかったが、作り手とは話してみたいと思って望んだ。庭師の前芝さんという若者だが、とても熱心で、つくばいの石の向きを現場で話しながら、彼の目指すところを聞いてみた。
小さな庭だが、こうした気品漂う庭となったのは、彼の熱意の賜だろう。併せて露地の植裁や石畳も手がけてくれ、小さな空間だが建築に寄り添い、建築を輝かせてくれたのは、彼の尽力によるところも大きいと思っている。
(つづく)
  (前田)