ミリと尺

建築には付きものの尺度の話を。
建築は寸法によって作られる。これが建築の宿命でもある。
彫刻や絵など、ひとりの人間の力や感性の表現で成り立つ芸術がある一方、建築の場合、多くはそういうわけにはいかない。
大勢の人の”手”の介在によって形作られ、初めて機能するものとなる。
それだけを見ても、建築はコミュニケーションで成り立っているともいえる。
ご承知のようにメートル法は現代の共通の尺度である。
この尺度が定まっているから様々な人が混乱することなく、寸法を仲介としてお互いの協力の下、ひとつの建築を作ることが出来る。共通尺度による寸法が、現場での共通言語ともいえよう。当然わたしも”メートル法”世代である。
父が建具職人とは以前に書いたが、幼い記憶の中に時々に父が”尺寸”を使った言い回しをしていたのを覚えている。
物珍しかったのだろう、妙に心に残っている。

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私自身、現代建築から日本の伝統建築へと進む中、京都の先生が使う寸法が尺であった。
当初ものすごく戸惑った。単位が違うだけで全くコミュニケーションが取れない。
電卓が手放せず、常に3.03を掛けてミリに直して理解に勤めようとしたが、話について行くだけで必死だった。
それがいつからか分からない。
尺が自然に使えるようになっていた。
やっと門前の小僧になれたんだと思う。
知っての通り、尺は何寸何分という積み重ねで構成されているが、その最小単位が1分、いわば3ミリである。この3ミリの違いは、そう鍛えなくとも目にその違いが判別できる寸法だということに、使えるようになって始めて気づいた。
1ミリの違いは今でも見ただけでは分からない・・・・。
人間の身体寸法といったらいいのか、人の目によって識別できる単位だということに、当時新鮮な驚きを覚えた。
今では尺寸で図面を書くのが当たり前になり、作っていただく方に多少戸惑いを与えることもある。その時には自分の経験を話すことにしている。
このコミュニケーションを取ることが、私の建築への第1歩になっている。
 (前田)