三重県 多気郡多気町
風光明媚な場所に茅葺きの家を建てたい、というのが長年の施主の夢であった。鮎の甘露煮を商って130年という老舗であり、新たな商いの拠点づくりとして位置づけていた。
場所は、周辺に田畑や茶畑が広がる宮川沿いの里にある。対岸には小高い山があり、その山裾をなでるように清流宮川が流れ、眼下にそれらを望める格好の立地にある。
要望としては、老舗としての店構えに加え、家業を展開させた、鮎を中心とする飲食を供する店として新たに設けたいという。家業にとっての宮川はまさに恵の宝庫であり、この地で商いをする感謝を込め、里の人々と共に生きていく姿を建築としても現していこうと一致した。
田畑や茶畑に囲まれて生きる大地の恵みと、宮川が運ぶ川の恵みを、その清流を見渡す場所で、人の営みに寄り添う建築の姿を模索した。
予算の節減もあって、要望される面積全てを、茅葺きの平屋で纏めることはできない。そこで、茅葺き特有の屋根裏の高さを利用し、床をスキップフロアとして空間を立体に纏めることで、建築面積の低減とともに、予算の縮小を図った。
土地の傾斜もあったが、店は周辺の田畑のレベルに合わせながらも、川沿いは、景色を思い切って取り入れるべく床を一段上げて飲食フロアに充てた。さらに川側の屋根を切り取って大開口を出現させることで、店上部の中2階座敷からも川の景色が望めるよう工夫している。
周囲の田畑や茶畑からは、日本の原風景といっていい茅葺きの佇まいを見せ、一転川側は、内部からの視線を遮ることなく大らかに開放することで、伝統的な茅葺きという技法を用いながらも、現代的な視点で再構築している。