愛知県名古屋市
名古屋の閑静な住宅地の一画に、歴代の茶陶のお家がある。当代5代目を襲名する名家で、このたびその工房と茶室の設計を依頼された。
敷地は丘陵を上がる坂道が北に取り付き、周囲には緑豊かな環境が広がる。既存の住まいと接続させて全体を整え、静謐な周辺環境に溶け込ませたい。
要望は1階に工房と茶室、2階に立礼席にも使える陶芸教室、3階に当代ご子息の住まいをという内容だった。限られたスペースと、高度地区に指定された範囲内でいかに空間を充実させ、3階建てから来る圧迫感を、なるべく感じさせないように纏めるかが課題だった。
そのため1階を道路際まで出し、高塀の意匠で建物と分離させ、2階以降を道路より後退させて視覚的な軽減を試みた。茶の湯に関わる仕事だけに、日本的な意匠で纏めたいと考え、板塀や出格子、軒を深く差し出した屋根に下屋を織り交ぜて、既存家屋とのバランスを吟味しながら慎重に纏めた。
設計にあたって、既存の工房を実測させてもらった。工程に沿って資材や器具が整然と並び、仕事に遅滞なきよう全てが整えられた姿は、まさに生み出す母胎の神聖さを見たようだった。歴代が培ってきた家業の重みを、痛切に感じさせられた。
2階の立礼席は、緩やかな船底天井として、高さ制限がある中、少しでも天井を高く、ゆとりを出したいと、天井の意匠に沿って構造梁を納めている。
茶室は、玄関前の空間を使って露地を展開させ、妻屋根で存在を際立たせながら、新旧の建物の融和に貢献させた。茶室内部は、客座3畳に点前座1畳の大きさとして、水屋を付属させている。茶家との繋がりもあるだけに、本格的な茶室として恥ずかしくない姿を模索した。
茶陶という家柄もあって、茶の湯が暮らしに溶け込み、瀟洒な表門を潜ると、まさに市中の隠を思わせる別天地が広がる。